戯言シアター#15 『アリス・イン・ワンダーランド』

Movie culture
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大人になるにつれて、私たちはさまざまなものを手放し、同時に多くのものを背負うようになります。幼い頃に抱いていた自由な発想や譲れないこだわり。それらを「分別」という言葉で捨てることもあれば、どうしても捨てられずに自分の中に抱え続けてしまうこともあるのではないでしょうか。

社会や周囲が求める「大人らしさ」と、自分の中に残る譲れない自分。そのギャップに息が詰まりそうになり、ふとすべてを投げ出してどこか遠くへ逃げ出したくなる瞬間は、誰にでもあるはずです。

けれど、生きていればどうしても逃げ切れない局面がやってきます。迫りくる問題や運命から目を背けられなくなったとき、私たちはどうやって恐怖を乗り越え、自分自身の足で一歩を踏み出せばいいのでしょうか。

戯言シアターへようこそ 案内人のサミっつーと申します。

本日は、『ありえない』と笑われた妄想が、私を立たせる覚悟になるー

『アリス・イン・ワンダーランド』について語っていこうと思います。


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映画概要

基本情報

作品名『アリス・イン・ワンダーランド』
公開日2010年4月17日 ※日本公開日
キャストジョニー・デップ (マッドハッター), ミア・ワシコウスカ (アリス), ヘレナ・ボナム=カーター (赤の女王/イラスベス), クリスピン・グローヴァー (ハートのジャック(イロソヴィッチ・ステイン)), マット・ルーカス (トウィードルダムとトウィードルディー), マイケル・シーン (白うさぎ), スティーヴン・フライ (チェシャ猫), アラン・リックマン (青い芋虫(アブソレム)), バーバラ・ウィンザー (ヤマネ(マリアムキン)), ポール・ホワイトハウス (三月うさぎ), ティモシー・スポール (ベイヤード), クリストファー・リー (ジャバウォッキー), アン・ハサウェイ (白の女王)
監督ティム・バートン
エンドクレジット「Alice」Avril Lavigne
ジャンルアクション&アドベンチャー、ファンタジー
上映時間109分

あらすじ

19歳に成長したアリス(ミア・ワシコウスカ)は、パーティを抜け出し、白うさぎを追いかけて大きな穴に落ちてしまう。行き着いた先は<ワンダーランド>。そこでアリスは、マッドハッター(ジョニー・デップ)、白の女王(アン・ハサウェイ)、赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)など、摩訶不思議な住人たちと出会う。
マッドハッターは、アリスこそがワンダーランドの独裁者 赤の女王による支配を終わらせることのできる“救世主”だと信じていた。
いつの間にかワンダーランドの運命を背負ってしまったアリスは、赤の女王との戦いに巻き込まれていく―。

アリス・イン・ワンダーランド|ブルーレイ・DVD・デジタル配信|ディズニー公式より引用

予告映像

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感想&考察

感想

ディズニーのアニメーション映画『不思議の国のアリス』の“数年後”を描いた本作。アニメ版の印象を残したまま今作を鑑賞すると、アリスという少女の「変質していない部分」と「大人としての成長」の対比が非常に際立っていることに気づかされます。

かつてのアリスは、どこか不思議で少し頭の固い少女でした。「不思議の国」の常識外れな世界に対して常に懐疑的な態度を崩さない一方で、自分の好きな世界には徹底的にのめり込み、自分の意思を強く推し進めるという少し強情な一面も持ち合わせていました。

それから年月が経った今作でも、彼女の根本的な性格は簡単には変わりません。溢れ出る好奇心や、自分が嫌なもの・理不尽なものに対する毅然とした拒絶の姿勢は健在です。しかし、その強い個性がゆえに、当時の19世紀の価値観やコミュニティにはうまくなじめず、息苦しさを感じながら生きています。

そんな彼女が再び迷い込む「アンダーランド」は、ディズニーアニメ版というよりも、ルイス・キャロルの原作『鏡の国のアリス』などの要素をより色濃く取り入れたダークで幻想的な世界です。かつて訪れた記憶をすっかり忘れていたアリスにとって、その世界はどこか懐かしい希望の場所でありながら、恐ろしい脅威としても記憶の底に眠っていました。

「世界を救う救世主」という大きな使命を突如突きつけられたアリスですが、白の女王との出会いやマッドハッターたちとの交流を経て、ただ流されるままだった少女から、己の運命を自ら選択する一人の大人へと確実に成長していきます。

そして、この映画の中で最も鳥肌が立ち、強く心に刻まれたのが、クライマックスでアリスがジャバウォックに覚悟を決めて立ち向かうシーンです。

彼女は元々、物語や妄想を思い描くことが大好きな少女でした。彼女が妄想してきた「ありえない世界」そのものが、まさにこの不思議の国に現出しています。恐怖に足がすくみそうな極限状態の中、アリスは自身を奮い立たせるように、こう口にするのです。

「奇想天外だけどありえることを6つ考えるのは朝飯前」

「自分を小さくする薬品があること」 「自分を大きくするケーキがあること」 「消える猫」——

そうやって不思議な現象をひとつずつ言葉にし、自分を信じる力を極限まで高めた最後に言った言葉。

「私がジャバウォックを殺すこと」

この宣言から剣を構える一連の流れは、本当にかっこよく、胸が熱くなる名シーンでした。

単なる現実逃避の妄想ではなく、幼い頃から持ち続けていた己の「想像力」を「覚悟と勇気」へと昇華させ、目の前の困難(ジャバウォック)を打ち破る力に変えた瞬間です。少女時代からのブレない自己を持ちつつも、自分の足で立ち上がる覚悟を手に入れたアリスの成長物語として、非常に見応えのある傑作だと感じました。

小ネタ

「マッドハッター」の顔には重大な病の兆候が?

ジョニー・デップ演じるマッドハッター(帽子屋)の奇抜なメイクやコロコロ変わる情緒。実はこれ、かつて帽子職人たちの間で実際に流行した「水銀中毒(別名:帽子屋病)」をモチーフにしています。

当時、帽子のフェルト生地を加工する際に水銀が使われており、職人たちは日常的に有毒な蒸気を吸い込んでいました。その結果、感情の起伏が激しくなったり、視力が不安定になったりしたのです。ハッターのオレンジ色の髪やチグハグな瞳の色、そしてころころ変わる性格は、この水銀中毒症状をティム・バートン流に表現したデザインです。

アリスのドレスがコロコロサイズ変化するリアルな理由

物語中、アリスは体を小さくしたり大きくしたりする薬品やケーキを口にします。その際、ドレスの大きさが一緒に変わるのではなく、「体が縮むとドレスがぶかぶかになり、大きくなると服が破ける」という演出になっています。

実はこれ、バートン監督の強いこだわり。「魔法で服までぴったりサイズが変わるなんて不自然だ」という視点から、縮んだアリスは大きすぎる服を帯で縛って着たり、小さくなった服を継ぎはぎして新しい衣装にしたりと、リアルな衣装変化が描かれました。

赤の女王の「巨大な頭」と「小さな体」の秘密

ヘレナ・ボナム=カーター演じる赤の女王の特徴的な巨大な頭。これは特注のカツラだけで表現されているわけではなく、撮影後のデジタル処理(VFX)で頭部のサイズだけを元の2倍に引き伸ばしています。

撮影現場では、彼女の首にかかる負担を減らしつつ、カメラで頭部を別合成しやすい特殊なグリーンバック環境で撮影が行われました。ちなみに、赤の女王のあのワガママで子供っぽい性格は、「頭ばかりが大きく育ち、精神が幼いまま止まってしまった」という裏設定を反映しています。

ジョニー・デップの即興が生んだ「フッターワッケン」

映画のクライマックス、戦いに勝利したマッドハッターが披露する謎の狂喜乱舞ダンス「フッターワッケン(Futterwacken)」。

あのキレのある動きの大部分はCGですが、ダンス自体の構想やブレイクダンスのような要素を取り入れるアイデアは、ジョニー・デップ本人が提案したもの。あまりに過激なステップ部分はプロのダンサーの動きをVFXでジョニーの顔に合成して制作されました。

原作ファン歓喜!「ジャバウォックの詩」の回収

映画の中でアリスが倒す恐ろしい怪物「ジャバウォック」。この名前や、彼を倒す宝剣「ヴォーパル・ソード」などの設定は、ルイス・キャロルの原作続編『鏡の国のアリス』の中に登場するナンセンス詩『ジャバウォックの詩』が元になっています。

劇中でマッドハッターが口ずさむ一見意味不明な言葉たちも、この原作のナンセンス詩からそのまま引用されており、ルイス・キャロル文学への深いリスペクトが込められています。

考察

映画『アリス・イン・ワンダーランド』では、恐怖政治を敷く赤の女王(イラスベス)が悪として倒され、容姿端麗で心優しい白の女王(ミラーナ)が新たな統治者として君臨するハッピーエンドが描かれます。

しかし、一見すると「悪政から善政へ」という単純な勧善懲悪に見えるこの物語。登場人物たちの振る舞増や各国の情勢を政治的アプローチで冷静に分析してみると、「これから国を治めていく白の女王の政治力は、果たして本当に盤石なのだろうか?」という興味深い疑問が浮かび上がってきます。

今回は、劇中でアリスが白の女王の国(マモリアル)を訪れた際のシーンなどをヒントに、二人の女王の統治スタイルを比較・考察していきます。

赤の女王(ハートの女王):恐怖政治と「淘汰された必然」

まず、追放されることとなった赤の女王の政治について振り返ります。

彼女の統治スタイルは典型的な「恐怖政治(独裁政治)」です。気に入らない臣下や失態を犯した者は即座に「首をはねろ!」と命じ、ジャバウォックやバンダースナッチといった圧倒的な武力(兵器)を背景に国民を屈服させていました。

政治の観点から見ると、彼女の国は一見統制が取れているように見えますが、内部は極めて脆弱です。

  • 臣下たちの忖度と偽装: 巨大な頭を持つ赤の女王に怯え、臣下たちは大きな耳や鼻の「付け具」をして媚を売り、本音を隠していました。
  • 忠誠心の不在: 恐怖で縛られた関係ゆえに、裏では誰も女王を尊敬しておらず、不満が充満していました。

結果として、絶対的兵器であったジャバウォックが倒された瞬間、兵士たちも一瞬で彼女を見捨てました。「恐怖による支配」は短期的には民を従わせられますが、一度綻びが出れば一気に崩壊するという、歴史的にも証明されている淘汰の運命を辿ったと言えます。

白の女王の国(マモリアル)のシーンから読み解く「完璧すぎる善」の違和感

赤の女王の暴政が倒れ、勝利を収めた白の女王。しかし、アリスが初めて白の女王の城「マモリアル」を訪れたシーンを思い返すと、彼女の政治に対してある種の「危うさ」や「甘さ」を感じずにはいられません。

「清廉潔白」というパフォーマンスと偽善

白の女王は純白のドレスを身にまとい、優雅で洗練された所作を崩しません。城内は光に満ち、美しい庭園と穏やかな臣下たちで溢れています。

しかし、彼女は自ら「生き物を傷つけないという誓い」を立てており、料理の最中ですら不気味な材料(人間の爪など)を扱う際に怪しげな笑みを浮かべるなど、その「善」の裏には強烈なエゴと狂気が透けて見えます。自分が直接手を汚さない「清廉さ」を保つために、汚れ仕事(ジャバウォック討伐という命がけの戦闘)を外部から来たアリスに全面的に依存・丸投げしている構図は、政治的観点で見れば「極めて責任回避的な指導者」とも受け取れます。

軍事力・国防意識の欠如

白の女王の国は、赤の女王の圧政から逃れてきた者たちの「避難所」としては機能していましたが、自前の強固な軍隊を持っているようには見えません。

「自ら攻撃しない」という平和主義は聞こえが良いですが、隣国に狂暴な軍事国家(赤の女王の国)が存在する状況において、他国からの侵略に対する防衛措置を他者(アリス)の奇跡に頼り切っていた姿勢は、国家の指導者としては危機管理能力に著しい欠陥があると言わざるを得ません。

この先、白の女王が治める「アンダーランド」はどうなるのか?

劇中ラストで、白の女王は赤の女王とジャック・オブ・ハート(ステイン)を追放し、平和を取り戻しました。しかし、物語が終わった「その先」の統治には大きな課題が残されています。

  • 理想主義による停滞: 完璧な善を求める白の女王の政治は、清廉である反面、清濁併せのむ柔軟性に欠ける可能性があります。清浄すぎる水には魚が住めないように、過剰な道徳観の強制は新たな抑圧を生む危険があります。
  • 「恐怖」に代わる「統率力」の試練: これまでは「赤の女王という共通の敵」がいたため勢力が結集していましたが、敵がいなくなった後、個性の強すぎる住人たち(マッドハッターやチェシャ猫など)を、不殺の誓いを立てた白の女王がどうやって法と秩序の下に統率していくのかは不透明です。

両極端な姉妹が描いた「政治のリアル」

赤の女王の政治は「恐怖に頼りすぎて自滅した独裁政治」であり、白の女王の政治は「自らの手は汚さず理想を掲げるクリーンなポピュリズム(大衆迎合)政治」と言えます。

一見すると善悪がはっきり分かれているように見える『アリス・イン・ワンダーランド』ですが、白の女王の城のシーンや彼女の歪んだ優雅さに着目してみると、「完璧な善の指導者など存在しない」「平和な統治を維持することの難しさ」という、ティム・バートン監督らしい皮肉めいた政治的メッセージが隠されているのかもしれません。

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作品をより楽しむために

この映画は「原作の映画化」ではなく「13年後の続編」

1951年のディズニーアニメ映画や原作本(ルイス・キャロル著)のイメージで観ると少し印象が異なるかもしれません。今作は原作のストーリーをそのまま映像化したのではなく、『不思議の国のアリス』の13年後を描いたオリジナル後日譚(続編)という位置づけです。

19歳になり、社会の常識や望まない結婚に縛られそうになっているアリスが、幼い頃に訪れた「アンダーランド(ワンダーランドの本来の名称)」へ戻り、自分自身を取り戻していく成長物語として描かれています。

「白の女王」の元ネタはパンクロックと料理研究家?

アン・ハサウェイ演じる「白の女王」美しく優雅でありながら、手つきや動きがどこか不自然で奇妙(どこか狂気を感じさせる)と思った方も多いはずです。

実はアン・ハサウェイは、白の女王を演じるにあたって「パンクロックなベジタリアン・パシフィスト(平和主義者)」という独自の解釈を持ち込みました。さらに、70年代のロックバンド「ブロンディ」のデビー・ハリスや、テレビで優雅に料理をするイギリスの有名料理研究家ナイジェラ・ローソンの優雅すぎる動作を参考に演技を組み立てたと語っています。

ティム・バートン監督が抱いていた「原作への不満」

数々のダークファンタジーを生み出してきたティム・バートン監督ですが、実は昔から『アリス』の物語自体にはあまり感情移入できていなかったそうです。

「これまでの映画化作品はどれも、変な少女が奇妙なキャラクターたちに次々と出会うだけのナンセンスなエピソードの羅列に思えた。もっとストーリーとして感情を揺さぶる『ひとつの物語』にしたかった」

そのため今作では、アリスに「ヴォーパル・ソードを持って暗黒の怪物ジャバウォックを倒す」という勇者としての明確な使命・目的が与えられています。

豪華すぎる声優陣と「遺作」となった名優

実写キャストだけでなく、フルCGで描かれたキャラクターたちの声優陣が非常に豪華なのも見どころです。

  • 青い芋虫(アブソレム): 『ハリー・ポッター』のスネイプ先生役で有名なアラン・リックマン。彼の低く渋い声がそのままキャラクターの威厳になっています。
  • チェシャ猫: イギリスの大コメディアン、ステファン・フライ。
  • ドードー鳥(ウイリアム): 名優マイケル・ガフ(バートン版『バットマン』の執事アルフレッド役)。劇中では数行のセリフですが、彼にとってこれが生涯最後の映画出演(遺作)となりました。

実際に存在する医学現象「不思議の国のアリス症候群」

映画の中でアリスの体が大きくなったり小さくなったりしますが、現実の医学界には「不思議の国のアリス症候群(Alice in Wonderland Syndrome)」と呼ばれる実在の症状が存在します。

自分の体や周りの物体が急に巨大に見えたり、あるいは極小に見えたりする知覚変容の一種で、主に偏頭痛の前兆やウイルス感染、発熱時などに起こるとされています。作者のルイス・キャロル自身も酷い偏頭痛持ちだったと言われており、彼自身が体験した感覚が作品のヒントになったという説もあります。

背景にあるキャラクター作りの裏側や監督の狙いを知っておくと、登場人物たちの何気ない仕草やセリフの意図がよりクリアに見えてくるはずです!

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参考文献

アリス・イン・ワンダーランド (映画) – Wikipedia

『アリス・イン・ワンダーランド』|ディズニー公式

【挿入歌】映画『アリス・イン・ワンダーランド 』で流れる曲まとめ(原題:Alice in Wonderland)
目次 1. 2010年公開、映画『アリス・イン・ワンダーランド』の挿入歌を紹介1.1. ■映画『アリス・イン・ワンダーランド』の挿入歌(エンディング曲)はこちら1.1.1. 「Al

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